アンジェラ・アキさんの決断
ジャズピアニストのアンジェラ・アキさん。今年8月4日の日本武道館での公演を節目に,無期限の活動休止を宣言している。ブロードウェイミュージカルの製作という夢をかなえるための決断だと報じられている。日本人の父親とイタリア系アメリカ人の母親をもつアンジェラさんは,2005年にメジャーデビューしてからの10年間,心に残る素敵な曲をいくつも私たちに届けてくれた。米国へ移住して音楽大学へ留学し,世界に通用するアーティストになって戻ってくると語るアンジェラさんは,今回リリースしたベストアルバムを,これまでの集大成とし,新たな夢への出発地点と位置づけている。黒縁のメガネを外した素顔の写真も添えられたことが,初心に返るという決断を象徴している。
私がアンジェラさん(36歳)の活動休止というニュースに惹きつけられた理由は,「その決断が正しいのかどうかわからないけれど,何かをすべきだと考えた」という彼女の向上心に共感したことにある。私自身も35歳の時,妻子がありながら現職教員を辞めて復学した過去がある。視野を拡げて学び直しをしたいと考えたあの頃の人生の岐路に,アンジェラさんの決断がだぶってみえる。10年ほど中学校・高校の教師にどっぷり浸かって学習指導も生活指導も部活指導にも全力投球していたあの頃…。決して不満はなかったし,意義を感じる職業だと思っていたけれど,「このままでいいのだろうか?」「定年までこのまま繰り返していくんだろうか…」と悩み始めた頃だった。家族と過ごす時間がほとんどない日常生活を見直す気持ちになったことも,田舎の父親が事故で倒れたことも,離職の決断を後押ししたように思う。高校3年生を担任していた秋のある日,私は理事長に辞表を提出して,その夜から教え子と同様に受験先(大学院博士後期課程)を調べ始め,受験勉強を始めた。高校3年の担任業務は連日夜まで神経をすり減らす仕事だから,自分の勉強は深夜に,記憶力の衰えを感じながら格闘せざるをえなかった。でも,あの時の自分は「ひとまわり大きな教育者になる,実践のわかる教育学研究者になる…」そんな信念に支えられていた。将来の見通しも成功予測も全くなかったけれど,自分を自分で高めたかったんだなあと,当時の無謀すぎた自分を,微笑ましく思い出す。アンジェラさんの“離職”は,私とは全く別次元の高度な芸術家的選択だけれど,向上心に満ちた自律的な生き方をみせてくれるアンジェラさんに,心からエールを送りたい。私はまたファンになった。
3月22日(土)の15:00にテレビ放映される彼女のドキュメンタリーがある。「拝啓 二十歳の君へ ~アンジェラ・アキと中学生たち 再会そして未来へ~」がEテレでオンエアされる。15歳の中学生だった少年少女と5年ぶりに再会した彼女がどんなことを想うのか,ドキュメンタリーを見逃さないようにしたい。
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