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2014年2月22日 (土)

NHKのゆくえ

 NHK会長の籾井勝人さんが就任記者会見で「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」と発言したり,従軍慰安婦問題について「戦争地域にはどこにもあった」などと発言した余波は,すでに国際的な問題に発展している。国会の参考人として追及を受けても不用意な発言とその撤回が繰り返され,「個人的な見解」であって会長としてのコメントではなかったと説明して続投への意欲を見せている。NHKはイギリスのBBCをお手本に作られた放送局だと言われるけれど,国民の受信料で運営され公共目的の放送が義務付けられている点では共通していても,政府や企業の圧力に屈しないことを誇りとするBBCとはずいぶん毛色が異なることを再確認できた一件だった。
 また,私は海外出張の際に滞在国でしばしば公共放送をテレビで観るけれど,NHKのように国会中継をする放送局は欧米にはあまりないことを不思議に思っていた。日本の国会中継では,人が発言している最中に大声でヤジを連発する代議士や本会議中に居眠りしている議員の姿が放映されてしまうことがあるため,子どもには見せたくないと思ってしまうけれど,英国議会はBBCを含めた放送局に対し国会中継を認めていないことがわかった。理由は,テレビ中継等をすると議員が有権者(視聴者)を意識しすぎたパフォーマンスをするようになり,政治がポピュリズムに流れるからだという。イギリスの政治家達の品性と良識を感じる話だと思う。
 ところで,NHKの報道姿勢や番組の製作には会長の意向がはたらくことになる。その会長の任命権と罷免権を含めたNHKの最高意思決定機関となるのがNHK経営委員会だ。月2回の定例会等で毎年度の予算・事業計画,番組編集の基本計画などを決定し,役員の職務の執行を監督する機関として設置されている。その経営委員の任期は3年で衆参両院の同意を得て内閣総理大臣が任命している。第二次安倍政権下の昨年6月以降に,12名の委員のうち10名が新しく任命されているけれど,いずれも安倍首相の“仲間”とされている。特に,最近国家主義的発言で問題になった作家の百田尚樹さんや埼玉大学名誉教授の長谷川三千子さんは,「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の発起人だ。
 放送作家の百田氏は東京都知事選の応援演説で旧日本軍による南京虐殺を「そんなことはなかった」と否定したばかりか,他候補を「人間のくず」と批判したとしてマスコミにたたかれた。小説「永遠のゼロ」で有名になったものの,日本国憲法第9条第1項を否定し,昨年8月16日には次のような主張をツイートしている。
 「すごくいいことを思いついた!もし他国が日本に攻めてきたら,9条教の信者を前線に送り出す。そして他国の軍隊の前に立ち,『こっちには9条があるぞ!立ち去れ!』と叫んでもらう。もし,9条の威力が本物なら,そこで戦争は終わる。世界は奇跡を目の当たりにして,人類の歴史は変わる。」 
 一方の長谷川氏は,20年前に朝日新聞東京本社で拳銃自殺した右翼団体の元幹部だった野村氏をたたえ礼賛する追悼文を就任前の昨年10月に追悼パンフレットに寄稿していたことが報道されて問題視された。その他にも長谷川氏は少子化対策として女性が家庭で育児に専念し,男性が外で働くのが合理的という内容のコラムを発表して男女共同参画社会を否定したり,選択的夫婦別姓制度や男女雇用機会均等法を批判したりして,古典的保守路線を堂々と主張展開している。
 こうした人たちが安倍首相のバックアップでNHKの経営に携わっていくと思うと心配事も増えるけれど,非常勤でも年収約500万円,常勤だと2,200万円を超える経営委員への報酬まで考えてしまうと,受信料を払いたくなくなるという人もでてくるに違いない。百田氏や長谷川氏が経営委員に選ばれた時,安倍首相との距離の近さが指摘され,NHKの報道姿勢などが偏ったものにならないかと懸念されたという。でも,今回会長に任命された籾井さんは,すでに就任初日に臨時役員会を招集し,就任の挨拶などとともに「あなた方は前の会長が選んだ。今後の人事は私のやり方でやる」という趣旨の発言をして,理事に辞表を預けるよう求めたと報道されている。
 これからNHKはいったいどんな方向へ揺れてしまうのだろう。
私たち国民はもっと政治的教養を高め,メディアリテラシーを鍛えていかなければならないと真剣に考えさせられた。

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