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2013年12月15日 (日)

グローバル化という名目での国粋化

 ブログを書くゆとりも失うような数週間を過ごしている。でも,このところの政権与党の強引な政策決定には黙っていられなくなって,多くの皆さんに一緒に考えて欲しくなってブログに書き込むことにした。

 ねじれ国会では重要法案も先送りされて困ったけれど,巨大与党となった途端に「国民の声を聴く」ことが形だけのものになって,特定の考え方の人たちが次々に制度・政策を決定してしまうのも大変おそろしい。今月の国会会期中にどうしても通したかったらしい秘密保護法案は,多くのメディアが指摘していた通り、内容も決め方も、民意を反映したものではなかった。選挙公約にもなかった重大な法律の制定を,自民党はいつから用意していたのだろう。公約に掲げていた公務員改革や原発依存度を低める政策実行は後退し,“一票の格差”問題で最高裁大法廷で「違憲状態」との判決まで出たから改正を急がねばならないはずの選挙制度の改革には消極的だ。そして,安倍首相の保守派ブレーンが招かれた教育再生実行会議は,やはり心配していたように文科省に大きな影響を与えている。その一つが,グローバル化に対応した英語教育改革実施計画改革 だ。

 2020年の東京オリンピックに向けて小中高校の英語力を高めようというスローガンはいいとしても,なぜすべての子どもたちがオリンピックまでに「英語でコミュニケーションできる」ことを“学校”での必須課程に設定するのか?興味を持たせ,学ぶ機会を与えることは大切だと思うけれど,必修化して成績評価を出しつつ英語で海外の人たちと会話ができるようにするという改革を実現させるためには,まず教員免許法の改訂と教員養成カリキュラムの調整を急ぎ,大学の教職課程での会話英語の授業を充実させる必要があるし,学校現場の先生方のゆとりをつくり,充実した研修機会を保障しなければならないはずだ。しかし,私が専門委員としてかかわっている中教審の教員養成部会には,まだそういう話は議論されていない(と思う)。文科省は13日にこの方針を発表したけれど,あまりに学校現場の実情を無視した改革案に見えてしまう。
 これまでの英語教育には課題があったことは否めない。だから「小学校外国語活動」の開始時期を繰り下げて3年生からとし,5年生からは総授業時数をさらに増やして,週3時間相当の「英語」の授業を導入するという今回の改訂も,中学校では(日本語ではなく)英語で授業をするという構想も,将来的にはあり得るとは思う。でも,それを2014年度から拠点校を設けて研究指定をスタートさせ,2016年に学習指導要領を改訂し、2018年度には小学校英語科の教科書検定を済ませた上で、2020年度からは教科書を配布して全面実施にこぎつけるという。これはいささか強引ではないか。さらに,今回はTOEFLでの成績目標基準まで決められている上に,中学生には英検3級以上を,高校生には英検2級以上を義務づけ,当然ながら英語科教員にはもっとシビアな条件のクリアを求めることになっている。各家庭にどれだけの経済的負担を強いるのだろう。学校の教育課程は間違いなく今以上に過密になり,教員の負担は計り知れない。教員給与を下げようとしている財務省の意向に従いそうな現政権下で,この改革案を実行したら精神疾患等で休職する教員が増えるのではないだろうか。

 もっと納得できないのは,「グローバル化」という名目の中で、「日本人としてのアイデンティティ」に関する教育を充実させるためとして、小学校低学年から国語科の内容に古典の内容を新設し、音楽や社会科でも伝統文化を重視し、先人の名言や偉人の伝記を読ませる道徳教育を“教科化”する方向性にも触れていることだ。まさに、教育再生実行会議の提言通りだ。私たちは過去の歴史に学び、国のために犠牲になった先達のためにも、未来の日本人のためにも、偏狭なナショナリズムに警戒しなければならないと思う。多様な異文化に配慮しつつ、共生社会を建設していく国際感覚をもって、多様性を尊重する教育を英語教育改革と同時並行して取り組むべきなのではないだろうか。そうした教育の中で母国を誇りに思い、日本人であることのアイデンティティをもつことが愛国心教育のあり方なのだと私は思う。これまでの各教科の内容も長い実践研究の成果から厳選されているのに、そうした科学的知識や新しい日本の文化遺産の学習を削って挿入されることになる教育内容が、偉大な先人の生き方や古典や伝統文化を一律に教え込むものにシフトすると、真のグローバルな日本人が育つようには思えない。こんなことを書くと、次期中教審の専門委員からはずされるのかも知れないけれど、やはり私は日本の学校教育を良くしたいし守りたい。だから…、文科大臣様、人一倍強い愛国心を持っている私の意見も聴いてください。

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