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2012年2月26日 (日)

2・26事件とどこか重なる政治状況

 今日は2・26事件が起きた日だ。社会科の教科書を読んでも,事件の背景や構造,その影響などを理解することは難しいから,私は中学や高校の社会科教師時代に,生々しい資料を教材化して,生徒たちに当時の国民の意識を考えさせる授業をしていた。この日が来るたびに,当時の授業のことを思い出す。
 そのせいか,最近の政治状況と,国家のあり方を思う人々の動向が気になっている。

 大阪市長さんが,マスコミや国会議員の先生方を上手に動かしている。彼は知事時代に,都市間競争に対応できる大都市制度として「大阪都構想」を掲げ,大阪維新の会と名付けた政治集団をつくり,これまでの慣習をやぶる様々な制度改革を発表して政治不信が高まる世論に新たな風を送り込んでいる。募集した政治塾への応募者は3,000人を超え,国政進出への準備も,「維新八策」として大胆な改革イメージを打ち出して波紋を呼んでいる。彼らを支持する人々は,どんな点に魅力を感じているのだろうか?
 大阪府の松井知事(大阪維新の会)は、議会に「教育行政基本条例」案と「府立学校条例」案および「職員基本条例」案を提出した。現在,府議会の議席の過半数を「大阪維新の会」が占めているから,まもなく可決されるだろう。その「教育行政基本条例」が成立すれば,知事が教育目標の設定や教育委員の罷免ができるようになり,行政の首長が教育をコントロールすることができるようになる。「府立学校条例」が成立すれば,3年連続で定員割れとなった府立高校を再編することが可能となり,保護者が「不適格教員」を申し立てる権利が認められる。「職員基本条例」が成立すれば,勤務実績を5段階の相対評価で行い,2年連続で最低評価となれば指導研修の対象となり,降格などの措置が法的に可能となる。教職員に対しても,特定の職務命令に3回違反すると分限免職にできることが盛り込まれている。大阪市長も同様の条例案を市議会に提出するようだ。

 これまでのところ一般市民が大きな反対運動を起こすような情勢にはなく,むしろ維新の会に対する支持率は相変わらず高い。教職員の中にもこの流れに賛同する意見があるとも報じられている。それほどまでに大阪の人々が従来の教育行政に不満を募らせていたのか,動かない日本の政治の状況下で,維新の会の行動力に“変革”を期待しているのか…。
 大阪を繁栄させよう,日本を良くしよう,という善意を動機とした純粋な政治集団であることは間違いない。しかし,その手法や具体的な政策にはどうしても危険なものを感じてしまう。長期政権の中で国民目線から離れた政治にあぐらをかいていた自民党が,小泉首相時代に「改革」を掲げ,高い支持率で断行した結果,その後国民の暮らしはどうなったのか?自民党に愛想を尽かした世論が「政権交代」に期待して成立した民主党政権が,まだその経験も能力も乏しいうちに「政治主導」改革をやり始めて失敗し,“ねじれ国会”の対応に苦慮して,やるべき政策が遅々として進まないでいるのも,われわれ国民が選択した「改革」の結果だ。この政治的閉塞感が漂うなかで,斬新な「世直し」の機運が盛り上がることは不思議ではないが,「改革」という心情的な期待感の先にやってくる現実への懸念と,人気や数の力で異質な意見を排除する形式が成立してしまうことへの恐怖は,歴史の教訓に学ぶ必要があるように思えてならない。明治維新を先導した坂本龍馬の「船中八策」にあやかって出された大阪維新の会の「維新八策」は,動機は同じでも,内容を警戒して読んでしまう私は,珍しく保守的な思考になっている。

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コメント

 お世話になっております。その大阪で中学校講師として勤務中のYです。
 職場でもかなり話題になっていますが、ともかく大阪の場合は他府県と比べて人権教育や平和教育・同和教育が盛んなせいか、公務員としての法令遵守をどこかに置き去り、その教育に傾倒されている方が多いのも事実です。
 この前も産経新聞さんが羽曳野市で扱われていた平和教育の教材に関して問題があったということで地元の教委からお達しがでたばかりですし、国旗国歌斉唱に関する条例も制定され、一部教員からは反発の声があがっている、というのが職場の現状です。
 そういう状態があるからこそ、橋下さんはこれを打開しようとして頑張っておられるのかも知れません。
 公立中学校で勤務する教職公務員としては、こうした政策に批判も賛成もできません。公人として。
 ただいえることは、地元関西の場合、「橋下人気」を引っ張る存在であるマスコミも、報道局によってその姿勢がバラバラであるということ。これは「言いたいことがいえる」大阪だからこそかも知れませんが、局によって賛成・反対・中立と姿勢が違っているのがまた興味深いのです。そして、大阪にある様々な問題がかなり根深いということも府民として念頭におかなければいけないのです。

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