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2010年12月 8日 (水)

PISA2009報道

 昨日7日に、PISA2009(15歳を対象とする「国際学習到達度調査」)の結果がプレス発表された。しかし、マスコミの報道がまたしても変だ! 何か大きな権力(勢力)にコントロールされているかのような危機感を感じて不愉快になった。

 第一回目の「PISA2000」の結果が公表されてから、 「PISA型学力」に注目が集まり、断片的知識の暗記学習ではなく、思考力や判断力が重要だと再認識されたはず…。でも、わが国の学力向上路線は、OECDが想定しているキーコンピテンシーとか、PISAで求めている批判的思考(「文句を言う」という意味の批判ではない)を高める実践を支援する方向にはほど遠い。マスコミ報道のあり方が、学力に関する世論を操作しているように感じてしまう。

 「子どもが学ぶ」とはどういうことか、どのような教育条件や教育方法が妥当か…などという議論を素通りして、“学力”を高めるためには、共通に授業時間数を増やし、基礎的知識をまず習得させることとする主張や,難解な古典を読ませる訓練が重要だと訴える人のコメントが「専門家の意見」として紹介される。さらに、今回のPISA2009で好成績を示した初参加の上海(中国)やシンガポール、台湾や韓国については、「競争が激化」していることが功を奏したという分析が取り上げられる。

 前回までのPISA結果報道も、平均点を国際比較したデータだけを取り上げて「学力低下」を強烈にあおり、学校現場の実態や教員の努力を丁寧にみることをおろそかにしてきた。調査対象となった生徒の解答傾向や成績のばらつき具合から今後の教育政策を検討するヒントを得るはずなのに…、またしても平均点で相対順位を算出したランキングに人々の関心を煽っている。今回の国際ランキングが「向上した」ことの理由については、脱ゆとり路線で朝読書や学習指導内容を増量させたことによる成果だと説明する論調まで出ている。なぜ?なんだろう。今回の被験者となった15歳の生徒たちは、2002年に小学校3年生だった学年、つまり現行の学習指導要領が全面実施に移された世代だ。この生徒たちは「学力低下」の張本人みたいに扱われた「総合的な学習の時間」をスタート学年から履修している。私は2002年に小学校4年生を担任していたから、当時の状況は今でも肌感覚で覚えているが,学校生活に「ゆとり」があったとはとても言えない。そして,この学年は,今度の新しい学習指導要領とは無関係に高校を卒業していく。

 民放ならともかく,NHKまでも「学力低下に歯止めがかかった」という解説の映像に,現在の小学校の授業映像が使われる。4年以上前の小学校の授業を撮っておいたなら納得できるが,PISA2009の成績は今の小学生には直接関係ない。また,参加国・地域は回を増すたびに増加しているし,後から参加する国・地域は当然ながら国内外向けのPRを見越して参加する。1億人以上の人口を持つ大国で,日本よりも成績のいい国はないのに,なぜそのことを評価しないのか。No.1になるまで,学力向上政策は続くのだろうか?

 私としては,日本の15歳の結果においてPISAの平均点が上昇したということよりも,得点がレベル1未満(最下位)の生徒が、読解力:13.6%、数学的リテラシー:12.5%、科学的リテラシー:10.7%という深刻な割合に達していることに,そして学力格差が次第に拡大していることの方に危機感を感じている。報道のあり方に疑問をもつ私の方が変わり者なのだろうか?

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