伏木久始研究室 http://fusegi.cafe.coocan.jp/

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2009年5月14日 (木)

人事院勧告

 人事院は、6月に支給するボーナスに関する特例措置として、一般職員の場合、現行2.15月のうち0.2月分を凍結(減額)するという勧告を国会と政府に行った。私たち国立大学法人に勤務する教職員も、就業規則が公務員準拠とされていることや、「社会情勢適応の原則」(国立大学法人法第35条による独立行政法人通則法第63条等の準用規定)を根拠に、今回の人事院勧告がボーナス支給額に適用されることは必至だ。私は国立大学法人になる一年前に国立大学に赴任したが、それ以来、給与のベースは下がる一方でも、給与やボーナスの算定基準などを調べている余裕もないまま過ごしてきた。しかし、全国大学高専教職員組合(全大教)から届いた情報をもとに人事院勧告の原文に初めて目を通してみたら、私の中で違和感が駆け巡ってしまい、仕事への意欲が萎えてしまいそうな心境になった。とりあえず、ブログに書き残してこの件から離陸したいと思っている。

 家族を養う立場からすれば、誰だって収入額を減らされることには反発するだろうが、過去に教員を辞めて学生として子育てをしていた貧乏時代を経験してきた我が家は(今でも住宅ローンで経済的余裕がないか)、手取額が減らされてもさほど深刻にならない経済的な免疫ができている。昨今の世界的な不況状況を考えると、民間企業のボーナスが抑制されるだろうという予測は成り立つし、公務員に準じた私たちの職種も、全く無関係というわけにはいかないだろうことは覚悟している。しかし、今回異例のタイミングで人事院が報酬額の調整勧告を発表したことと、勧告のもとになる調査のあり方にはいささか疑問が残る。

 人事院は、「民間の春季賃金改定期における夏季一時金の決定状況を緊急に把握するため」として、今年4月7日(火)から4月24日(金)までの18日間に、2,669社を対象とするアンケート調査を実施した。そのうち、75.6%にあたる2,017社から有効回答が得られ、業種や企業規模における格差も勘案して算出した結果、今回の緊急勧告につながったという筋書きだ。→ http://www.jinji.go.jp/kankoku/h21may/h21may_top.htm

 その勧告の別紙「報告」にも明記されているが、①今回の特別調査は、短期間のうちに通常の職種別民間給与実態調査とは異なる抽出方法を用い、支給実績の実地調査ではなく通信調査で行ったものであり、データには精確性に関する不確定要素がある。②今回の特別調査による決定済企業の従業員数は、全体の約20%であり、かつ、給与水準が大幅に下がっている製造業従業員のウエイトが高いので、全産業を代表するものとはいいにくい。③従業員割合で約8割の企業において夏季一時金が未定となっている現段階では、その数値はあくまでも本年夏の予測値にとどまるものである。このように「留意する必要がある」点も明記している。結論として、人事院は6月期の特別給の支給月数の一部を「削減」ではなく「凍結」とし、支給実績が好転すれば「解除」できる可能性を残したという説明になるわけだ。なぜ、前例のないことを、こうした実態に即さない調査方法で、この時期に強行したのだろうか。何か裏側に特殊な意図があるのではないかと疑心暗鬼になる。

 製造業の場合、不況になれば残業や就業時間が減って、給料やボーナスが調整される。しかし、私のセクションでは独法化とともに「財政再建」「公務員削減」等の政策が急激に進行し、一人ひとりの仕事がどんどん増えている。大学では専門分野が異なる教員がそろっていることが学生の教育や社会貢献に繋がるのに、近年は予算的・制度的に退職教員の補充人事を起こせず、隣接分野の授業や学生指導を現員の教員で穴埋めするしかない。事務職員も削減されっぱなしだから、今やほとんどのプロジェクトは事務員と一緒に大学教員が事務仕事を担当している。私たちは残業手当が計算される勤務形態(就業規則)ではないので、仕事量が増えても収入には反映されないし、むしろ給与のベア水準が下降線をたどる中でストレスを増幅させている。こんな状況の中で「民間の実態に準じて」という説明を黙って受け入れてきた。ボーナスが減額されることに文句を言うつもりはない。しかし、私は給料増額よりも休みがほしい。できれば睡眠時間を削らずに確保できる研究時間もほしい。私たちのように現在の政策の中で休みがほとんどとれなくなっている職種、分野もある現実をしっかり観察してほしいという思いが、今回の人事院勧告への違和感の源だ。教育や福祉・医療分野にも「聖域なき構造改革」を豪語した政策が、いったいこの国に何を生み、何を壊しているのかを、次の政権を取ろうとする政治家たちがしっかり把握してくれることを心から願いたい。

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