サイバーコンドリア
私の日常生活は,好むと好まざるとに関わらず,着実にネット社会への依存度を増している。出張の際は必ず新幹線のチケットと宿をインターネットで予約するし,講演会場までのアクセスや飲みに行く店までWeb検索を多用している。今回の年末ジャンボ宝くじも,ネットサイトで購入した。仕事で必要な書籍や機器の情報収集にもインターネットは欠かせない。研究上の論文検索や文科省の審議会情報の閲覧などをネットサーフィンすることも日常茶飯事である。さらに,最近は自分の一週間のスケジュールでさえも,ネット上で管理しているマイ・カレンダーをチェックしないと不安になる。いつの間にか,私はどっぷりとインターネットに依存する人間に陥ってしまっている。
こんな私のようにWeb検索に依存度を深める人間に発症者が増えているのが「サイバーコンドリア(cyberchondria)」だ。サイバーコンドリアは,hypochondria (心気症)にサイバーを組み合わせた造語であり,2000年頃に登場したらしい。私がある出版社に依頼されてインターネットを利用した教育効果の光と影の両面について記事を書いたのは1999年のことだったが,その頃はまだ子どもたちの問題としてのネット依存症,ネットいじめ…なる弊害を指摘する声は皆無だった。私もそんな問題が起きるなんて思いもしていなかった。そもそもインターネットは,1960年代に米国で軍事目的としての開発に始まり、後に研究機関等の限られた分野で利用されながら進化をとげた通信網である。特に1994年当時のゴア副大統領の「情報スーパーハイウェイ構想」を契機として、また商業利用にも門戸が開かれたことも起爆剤となって、1990年代にはインターネット利用者が激増した。しかし,一般向けのブロードバンド回線は,当時まだ開発途上にあり,学校教育においては「100校プラン」などというパイロット事業が進められていたに過ぎなかった。今では見向きもされなくなったISDN回線に私が家の接続環境をグレードアップさせたのも96年頃だったろうか?それが今やインターネット環境は多くの人々の必須アイテムになりつつある。それに伴って生まれてきたのがサイバーコンドリアだ。
米国のMicrosoft Research (MSR)は,サイバーコンドリアの実態を調べるため,515人を対象にサーベイ調査を行った。その報告書によれば,体調に少しでも異変を感じたらすぐにインターネットで該当する症状を検索し,自己診断を始めるのが典型的なサイバーコンドリアの症状だという。この新種の病の問題点は,Web検索の結果を権威ある専門家の説明のように扱ってしまうこと,そして検索結果リストの最初の方に登場する結果をより重要度の高いものと位置づけ,情報データに対しても,先に登場するサイトほど信用度も高く位置づけてしまうこと。Web検索で調べものをする際,検索結果のうち,最初の数項目のサイトしかチェックしない人が多いということはしばしば語られる一般論であるが,それによりサイバーコンドリアがますます深刻な病気になってしまうのだ。Web検索結果のランキングへの依存が,人々の判断を深刻な病気へと導いてしまう。
それなりに心配な体調不良の症状に関する情報をWeb検索で見つけた人のうち,実際に医師や看護師など専門職に相談した人は25%以下にとどまっているという。Webから得た情報に心配を募らせながらも,かといって安心するための現実的な行動を起こす人が少ないという傾向にも,この新種の病の特徴が見え隠れしているのかも知れない。
中学生の長女が最近ブログにはまっている。ブログ検索を通して実にユニークな映像データなどを,他のブログから許可をもらって自分のブログに貼っている。今までは,娘にネチケットやセキュリティーのことくらいしか助言していなかったが,サイバーコンドリアのことも教えておこう。私自身は,サイバーコンドリアに感染しないよう,自分の日常生活を見直してみることから始めようと思ったが…,今夜もネット検索を活用しながら某予算書を作成していたらこんな時間になってしまった…まずい!さあ寝よう。とりあえず体内時計を壊さないことから取り組もう!
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